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管理人のみ黙読
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 Essay > [トリカコマレタ ヨル]2006/07/08(土)
 期末試験も終わり、中学の仲間も、それぞれの生活に慣れてきたようです。
 一週間ほど前から、中学時代の部活の部長に、「そろそろOBの集まりを開催するように」と提案しておった私でございますが。

 昨日の夕刻。

8時7分、A君よりメール着信。『家の前の通りに来い』
8時8分、B君よりメール着信。『家の前に出なさい』
8時8分、C君より電話着信。「今、家向かってるから、下来いー!」
8時11分、A君より電話着信。「遅い! 早く来い!」

 ……えっと。

 のんべりと一人で優雅に食事とってアルコールをたしなんでいたわたくしに、4分でなにをしろと?
 挙句の果てには、家の下より、遅い、と大声で叫ぶなり、絶叫に近いボイスでカウントダウン開始ですよ。恥ずかしいし何より近所迷惑だからやめろ、などと言う権利は、1分遅刻した自分にはさらさらないようで(だから、4分でなにをしろと?)。
 気を取りなおして、何しに行くのかと問うと、鬼ごっこ、などという聞くだけでは相当に無邪気な答えが返ってきて、まさかまた補導されるまでエンドレス鬼ごっこではあるまいかと嫌な予感が脳裏をかすめ。ここまで書くと、一体何たる不良部員どもだ、と思えますが、うーん、きっと根はいいんです、ただ、ちょっと、あー、やんちゃなだけで? そもそもこいつらの一番の悪行といっても……(後略)

 閑話休題、公園につくとこやつらはホントに鬼ごっこなど始めました。ばかだ、この体育系ども、運動大好き人間め、と1人ぼやいて、ベンチにへたり込む哀れな少年若干一名。傍から見たら、「ああ、あの子いじめられてるのかしら、仲間外れじゃない」と不本意な同情を誘うことになるでしょう。ただし、実情としては校舎を3階登るだけで、はあはあ言う、元ラグビー部とは到底思えぬ一少年の体力のせいなのです。

 一人ちびちびと飲み物を飲むこと数十分、奴らとて人の子、しどしどに汗をかいて、戻ってきました。明るい街灯の下で見ると、なぜだかラグビージャージを身に付けた輩までいます。ややあって、公園を移動しようなんて話になり、なぜに公園をハシゴせにゃならんのかと、ぶつくさ言いつつも、自転車のキーをようやく見つけて顔を上げれば、着替えをしていた1人を除いてみな先に行っちまいやがったのに気付きます。はあ、と大きなため息をし、その1人と一緒に奴を追いかけました。

 大きな公園のまわりはなんとも閑静な住宅街。これでもかというほどに街灯が少なく、これは東京かと疑うほどあたりは暗い状態でした。
 当然のように奴ら、先駆者の姿はとうに見えず、その先頭集団の1人に部長がはいっているのも想像に難くありません。なんてリーダーだ、部員を労わるということを知らねぇのか、と心の中で唸っていると、後ろから足音が聞こえてくる。

 たったったったっ!

 足音が聞こえる。

「オイ、待てっ!」

 たったったったったっ!

「待てっつってんだろ!」

 ……。

 今宵の集まりにこんなハスキーな声の持ち主はいなかったはずでして。こんな聞くだにデンジャーなボイスは初めて聞きました。招かれざる客であることはどうにも間違いなさそうです。前にも聞こえたらしく、僕の前を走っていた仲間の自転車をこぐ速度も上がっていきます。
 ……というかD君早いよっ!? 競輪の選手かよっ!
 慌てて前屈みになり、スピードを上げようと試みるのですが、腰に響き、どうにもかばってしまいます。これは、バイト先で10キロはあるだろう業務用ミキサーを腰に落とされたからなのですが、こんなところでとばっちりを食うとは思いもしませんでした。
 仲間の姿をずいぶんと先に見て、これは仕方ない、話してケリをつけるきゃあない、と自転車の速度を落として後ろを振り返るわけですが、そこでようやっと気付きました。後ろの方随分と足がお早い。いや、そんなことじゃない、それよりももっと重大なこと。

 この人上半身裸だよ!?
 もうこの時点で平和的解決という手段を捨てました。平穏な人なら上半身裸で通りすがりの一少年を追いかけたりしない、……というか、たとえ平穏じゃないとしても、少しでもまともな方でございましたら、夜に都会で裸になることはございませんでしょう。

 慌てて前を見据え、速度を上げて吹っ切ろうと思ったのですが、甘かった。どうにも奴は1人じゃなかった。前におそらく4人程度、あの裸軍団が両手を広げて待ち構えていました。もうこれは罠としか思えません。心の中で罵りつつ、待ち受けている人に気付かなかったフリして通り抜けようとしたのですが、そこでまたもやサプライズ。

 裸、自転車に飛び込んできたよぅッ!?

 ありえない、とにもかくにもありえない。どう控えめに見ても時速40キロは出していた鉄製の自転車を裸で、いや、裸は関係ない、ともかく止められますか? 普通よけませんか? とはいっても、裸の時点ですでに普通じゃないこの方たちのことですから、強制終了になりかけた頭を必死に稼動させて応対を続けたいと思います。
 負けるなオレっ! ケンカだケンカ! 殴れ殴れ! こっちも裸になったほうがいいのか!(なんか違う)

 胸の奥で考えていたカッコいい思考とは裏腹に、きっと、いや明らかに向うが悪いはずの衝突事故に対し、あんまりにあんまりな激突だったもので、つい意識を通さず「ごめんなさい、大丈夫ですかっ!? 怪我は!?」と素で謝った僕。気が小さいぞ僕っ! しっかし、ホントにすごい止めだけどもラグビー部でございますか、と頭ん中でちらちら余計なこと考えるあたり、案外大物かもしれません僕。

 この季節、曲がり角でカワイイ女の子とぶつかり、めでたく結ばれる、というお決まりのプロットがありますが、そっちのほうが数倍よかったですよ。何が悲しくてこの蒸し暑い夜に曲がり角で裸の若い男に自転車で突っ込まなきゃならんのか。

 衝突と同時になにやら細い銀のものがどっかへ飛んでいったように見えたので、もしやシグ君(愛機SigumarionIII)のスタイラスではあるめえか、そうだったら困ったなあ、と気が気ではないわたくしは(この状況でこれはやはり豪胆なのかオレ)、地面をざっと探すのですが、その態度がどうやらあちらさんの機嫌を損ねたようで、裸の男A(というかどれも裸で区別がつかん)に肩をつかまれたので、探すのは断念、どうやら腰を据えてお話をしなければならないようです。

 こうして、裸たちと向き合うことになったのですが、トラは視線を合わせないでいると隙ができたと思って襲ってくるという話を思いだし、なるべく目を合わせて向うのお話を伺おうとおもったのですが、そのあとに、ゴリラは視線を合わせると興奮するという話も思いつき、はてどちらが正しいのか、こいつはゴリラなのかトラなのか云々。
 さすがにそこまで考える余裕はなかったのですが、前の人とは目をあわさず、左右をきょろきょろして、特に後ろの間合いをはかりました。おそらく7人、もしかしたら8人か9人、見事に全員上半身裸。これはユニフォームなのか訊ねたくなるほどの揃いっぷりでございました。

 道の真ん中に自分の自転車が倒れたまま、なにやら謎のうちに道路の端へ連れて来られました。ちょっとここ座って、とか言ってきたのですが、座るも何も、椅子も段差もないのにどこへ座れと? 体育座り? 体育の授業始めるの? と思ったのですが、もちろんそれを声にするほど僕は愚かじゃありません。ただ、無防備に座るのも不安だったので、立ち尽くします。
 すると、なにやら光がさしてきました。これは天国の光か、ううん、いい心持ちじゃあ、と思うはずもなく、その光が近付いてくる車のヘッドライトによるものだということがわかりました。その車は倒れた自転車を前に停止し、困ったように立ち尽くしました。
 それを見ていた男Bが、これどかしたほうがいいね、と言うなり、悠然と自転車を引いて持ってきてくれました。この人たち、裸の点を除いて、まともなのかまともじゃないのかわかりません。
 ここで、返せ、くそやろうっ! とでも怒鳴れば果敢で勇猛な男っぽい絵が取れるのかもわかりませんが、たとえ男っぽくないとしてもオレはバカじゃあありません。ただ、バカじゃないにしても、ちびっと弱いのかもしれません。こっちは絶対悪くないはずだのに「やー、ありがとうございます」だなんて腰低くして言っちまった。やー、オレ弱いっす、善処します。
 そんなことより、ここでの一番の不満は、その車が、邪魔となっていた自転車が消え去るなり、すうっと音もせずに走り去っていったことですよ。上半身裸の男どもに、服を着た少年が混ざっていたらそら目立つでしょうよ!(服を着ているのに目立つってナニよ) 
 裸の男たち多数が1人の少年を取り囲んでいて、自転車が一台だけ倒れている。この状況を見て、何か理解できなかったのかよドライバー! 「あー。裸祭りの集まりに少年が遅刻してきたんだー」とでも考えたのかドライバー!

 話を戻して(むしろどこへ戻せばいいのかわからなくなってきた)、裸の男どもに囲まれて、チラと思いつくのはアレですよ。あー……、あのう、少しでも考えた自分を恥じるのですが、ずばり、強姦でございますな。そうだ、あのドライバーも強姦の件をチラとでも考えて欲しかった。もしかしたら犯罪ほう助になっちゃうぞドライバー!(だいぶ大げさ)
 それはともかく、よくよく彼らを見てみると、怒鳴る者あり、人のバックを物色する者あり、僕をにらむ者あり、それこそ行動のパターンは豊富なのでございますが、どれにも共通して、こう、殺気立っているという特徴がありまして。言いかえれば血走っているとでもいえるので、こうなると、また、あー、カラダを欲しがっているのカナァー? などと考えるのも至極自然なことかなあとかなんとか。いや、だってさすがに混乱してたんですよ僕は。こんな風に囲まれたのは初めて……じゃあないんですけど、そんな経験は少ないですし、それに1人対8人というシチュエーションも正真正銘初めてでしたし、何より相手は裸です。多少変な被害妄想に陥ったとしても致し方がないことではございませんか。どだい、冷静に考えても、裸でカツアゲする不良グループや、裸で決闘をする輩なんていないでしょうよ。それに、裸という時点でもう常識を越えてるんです、そんな細かいこと知りませんよもう。

 やがて、アドレナリン放出が絶頂を過ぎ、少しずつ冷静になってくると、向こうも落ち着いてきたようで、ようやっと話が通じ始めました。
 ざっとその話を要約すると、どうも、この人たちに向かってどこぞの馬鹿野郎が故意に花火を打ったようです。それで、僕と愉快な仲間たち(逃げおおせたユダども)はそのグループの仲間だと勘違いされ、いつの間にやらその派閥争いに巻き込まれていたのだとか。……彼ら、言葉が足らないので一部は推測するほかないのですが、それがどうやら真実のようでございますなあ。
 くだらない、ホントにくだらんことで、ケンカなら『火事と喧嘩は江戸の華』ということで、勝手によそでやっておくれよう、何でオレを巻き込むかなあ、と不運を嘆くのですが、もし不平を言ってしまえば、この勢いで殴られないとも限らない、痛いのはヤダということで、従順きらり。やはりやはりどうにもこうにも立場が弱いので(だって相手多いし、無理ですって)、しかたなく「自分たちは6人組で、別の公園にいたのをこっちにきただけで、ここには今来たばかりで、バッグにライターも花火もなかろう、だからしてませんて、やってませんて」とくどくどくどくど筋道たてて説明すると、何とか相手方の態度も軟化してきました。
 じゃあ何で俺らに気付いたとき逃げたんだよ、と睨むひともいました。そりゃァ裸の男が走って来たら誰だって逃げるだろうよ! と思うのですが、言ったらもちろん悪印象。たくさんヨイショしてこの人たちをいい気にさせなくてはならない身分としては、んー、と唸ってごまかすしかありません。今の最優先事項は自らの保身なのです。

 ここで一押しだな、と帰してもらうチャンスを垣間見た僕は、ここぞとばかりに、協力姿勢を見せます。「奇襲で遠距離攻撃なら恐らくやり逃げかヒットアンドアウェイでしょう。どちらにせよいったん退却するはずです、長居するはずがない。逃げるとしたらひらけたこちらの大通りよりそっちの視界の悪い通りに逃げるんじゃあないですか」と、あることないこと軍事評論家ばりに並べ立て(でたらめ言うのは十八番でありますゆえ)、協力姿勢をアピールアピール。何とか相手を持ち上げていい気分にさせようとします。これって媚びてるっていうんじゃないかと軽い自己嫌悪に陥るのですが、今は何より自らの身がかわいいのです。プライドなんて知りません。

 そうこうしているうちに、ようやっと彼らは満足し(こっちはげっそりだよ)、しまいには「ごめんね」とまで言うようになりました。あっぱれなフレンドリーぶりですが、「ごめんなさい」ではなく「ごめんね」なあたり、こちらを下手(したて)にみているのは間違いないですね、はい。腹が立って、彼らに文句をぶつけるのですが、もちろんそれが声になるはずがなく、口から出たのは「いえいえお気になさらず」なんて言葉で、おまけの笑みまでお付けして、これまたフレンドリーに返してしまうのです。
 ここだけ読むと、通りがかりに肩がぶつかったので律儀に謝ってくれた人に、笑顔で応えている、微笑ましい、現代の美徳をありありと感ずる情景が浮かぶと思いますが、実情としては、彼らは依然、裸の状態で哀れな一少年を取り囲んでいるのであります。
 この状況じゃあ、相手の謝辞に対して笑顔が引きつっていたとしても、十二分に上々といえるはずです。

 やがて、やまぬ嵐がないように、永遠とこのままかと思った彼らとのステキな出会いも、彼らが立ち去ることで終わりを告げ、しばしその場に呆然と立ち尽くしていた私でありますが。ふとした弾みに、足が震え始めましてね。もうそりゃァ情けないほどに……、いや、だって裸なんだ裸(もう、やつらの裸が脳裏にちらついてダメだ)、この震えは不可抗力だ、だって上半身だけとはいえ、はだk……(以下略)

 数秒も経たぬうちに、震えも収まり、何はさておき仲間と合流すべきだ、と考え、自転車をこぎ始めると、にわかに電話着信。発信者名を見ると、
「部長……」
 イスカリオテのユダだ、今さらかけてきて何のつもりだ、ちくしょう。先に行きやがったくせに。しかもこの謀ったかのような絶妙なタイミングは一体なんだ、裸が去ってから電話をよこしやがって、さては奴らとグルか。
 相当に相当にむしゃくしゃしていた自分は電話に出るなり、「どこにいやがるんだこの野郎ッ!!」と本気で吼えてやりました。反対の道を通っていた人が驚いたようにこちらを振り返るのですが、ずっと何人もの裸に睨まれていた自分が、今さらたった一人の視線など痛くも痒くもないのは当然というものです。

 その後、かくかくしかじか、些細なことを話してから、なんと、もと来たところを戻れ、合流しよう、と言われました。もちろん、裸らがたむろしていたら今度こそ気まずさゆえに死んでしまいそうなので、必死に異議を唱えようとしたら、奴はさっさと電話を切りやがった。しょうがないので、相当に遠回りして、裸を避けて合流地点へ向かっていたら、突如「ごめんね」と声がかかりまして。思い当たるのはひとつしかない、げっ、裸っ! と思って焦点を合わせると、全開のワイシャツをひらひらさせてはいるものの、一応は衣服を身につけている、元裸がいました。この人は服というものを一応知っているのか、ただしあまりに『ハラなんとか』のつくセクシャルぶりでございますな、と思う間もなく、気圧でも水圧でも風圧でもない圧力が、僕の口から「いえいえお気になさらず」という文句を出させます。従順きらり。

 やっとの思いで仲間と合流すると当然のように武勇伝を話すはめになり、丁寧に細かく話そうと思うのですが、「したかが、したた、あぅ、しかたがなかったからさ、」なんて言いつつ、だめだ呂律が回らん、と自分でも驚くほど狼狽していたようでございます。
 しかしながら、この経験に対し、「タクのせいでテンションが下がったからなあ」などと言われても、困ります、というかむしろ、ブチきれるぞ、ドタマかち割るぞ、と思います。大体一番テンションが下がったのはオレじゃ、まごうことなき、公明正大に被害者はオレじゃ、あんたらのことなんか知らん、とポンポン思うことが出てきます。そして、危うくその勢いに乗って、こっちはもう少しでヤられるところだったんだちくしょう、と叫ぶとこでしたが、何とか自制心が抑えてくれました。ううーん、助かった、助かりました。もし話したらなんと思われるかわかりません。それにこいつらのことだ、話はチェーンメール化して次の日には何百人もが知ることとなり、挙句の果てには『未遂』が『既遂』になり、世間に白い目もしくはありがたくない同情の目で見られるに違いないのだ(だいぶ被害妄想)。

 それだけで心底疲れ果てていたのに、このバカどもは鬼ごっこをやるといって聞かない。もうやだ、なんだこりゃ、厄日か。
 確かにいい経験にはなり、おかげで雑記のひとつが書け、役に立ったとはいえなくもないですけども、あー、もう勘弁です。もう2度と絡まれたくないとゼイタクなことは言いません。けどもけども、せめて、1人だけってのと、裸っていうシチュエーションは勘弁してください。

 そんな無駄にスリルとバカと疲労に満ちた夜でした。
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