FC2ブログ
TopAboutShort-ShortEssay100-TitlesInternetBBSLink│ ┃EXIT
((( オリジナルのベルやかた )))  ~Original Novel Mansion~
 スポンサーサイト--/--/--(--)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
このページのトップに戻る
 コメント
このページのトップに戻る
 コメントの投稿
管理人のみ黙読
このページのトップに戻る
 SS > [さらば愛しき受信料]2006/02/25(土)
 一枚の紙面を前に、ペンを手に取る。……そんな絵になるものは現在では珍しい。ただ、一人の男が椅子に座っており、パソコンと向かい合っているというだけだ。

 かたかたかたかたとキーを叩く、壮年の男。かたかたかた。いつまで続くかわからない作業の中で、男はすうっと目を細めた。哀愁さえ感じられる、年季の入った表情である。落ちぶれた、とか、うらぶれた、ともいうのだが。

 パソコンのディスプレイ。男が手を止めたところ、つまりカーソルが示していたもの、それは数字だった。そして、その数字が意味することは、徴収済み受信料の金額であった。既にお察しかも知れないが、ここは日本国の国営放送局、NHKなのである。

 男はまだ固まっていた。というより、完全にまぶたを閉じてしまっていた。別に寝ているわけではない。作業効率で言ったなら寝ているのと同じことなのだが。まあ、実際は、昔の記憶を回想しているのである。

 なぜ彼は昔の世界へフラッシュバックしてしまったのか。というのも、以前まで受信料の徴収員だったからである。彼の脳は「受信料」というキーワードを吸収するなり、反射的に記憶のそこに潜り込んでしまったのである。そんなわけで、彼は目をつむって回想せざるをえないのである。かつて徴収員だった時分を。

 男の右手、その人差し指と中指が、ぴくりと動いた。これも脳のイタズラである。おばさんに受信料支払いを求めたときだった。おばさんは、用件を言われるなり、まだ彼の手があるのを知ってか知らずか、ドアをばあんとお閉めになられたのだ。彼の人差し指と中指のお骨は粉砕。血を流して社に戻った彼に、上司は、よい医者にケガの手当てを頼み、総務課に傷病手当ての申請をしてくれた。

 回想は更に進む。男はびくっと口を抑えた。これもまた脳のイタズラである。あれは、おじいさんのお宅に伺った時である。前回の出来事に懲り、老人宅への徴収をひどく希望するようになっていた。このおじいさん宅もそのひとつである。インターホンを鳴らし、扉が開くのを待った……のだが、扉は開かずに「だれかえ?」なんて声が聞こえた。彼は不審がることもなく身分と用件を言った。しかし返ってきたのは「あー?」なんていかにも聞こえてませんちっくな声だった。男はドアに近づいて大声で言った。「NHKのものでして、受信料……」「えー?」「NH……」「あー?」。男と老人は繰り返すこと3回。ああえぬえいちけーさんかい、はいよはいよ、などと動く気配がして彼はほっとしたのだが、如何せん先ほど声を伝えるため、いささかドアに近づきすぎていた。おじいさんはなかなかにパワフルな男であり、ドアの開き方もなかなか達者、猛スピードで開いたドアは、彼の顎にクリーンヒットをかました。地面に落ちた二、三本の白いカケラを前に、彼は口から血を流して号泣した。

 回想は長い。パソコンの前で男は肩を大きく仰け反らした。これもまた脳のイタズラ、いや体全体が反応してしまったといっても過言ではないかもしれない。ケガを何度も経験しながらも必ず職場に復帰すると言う彼を同僚は親しみと呆れと小さじいっぱい程度の尊敬を込めて、ミスターパワフルと呼ぶようになったころである。彼は男になった。どんな相手でも果敢に受信料を請求しに行くようになったのである。そんなわけで当時の彼はあるボロ家を前にしていた。ヤクザと噂の元気のいいお兄さんの家である。「あの、NHKのものですが受信料を……」「誰だ、てめェはよぉー!」「今期の受信料を徴……」「誰にケンカ売ろうとしてんだ? ああん?」「いや、私どもが売っているのはケンカじゃなくて放送でし……」「金はねえよ! うせろ!」「NHKも赤字……」「なんだよ赤血が見てぇのかごらぁ!」「受信……ぐはっ」彼は肩から血を流して失神している所を翌日発見された。

 男はうっすらと目を開けた。彼の武勇伝を回想し終えたのである。武勇伝、武勇伝、ぶゆうでんでんででんでん、などと呟いた彼は、頬の水を払い、マウスに手をかけた。かち。頭に残っているビジョン、ミスターパワフルが移動した日。あの時はスタンディングオーベーションだった。NHKの英雄の座を若い連中に譲ったのである。キーボードに手をかける。指はDeleteキーにのせた。彼も最前線にいたのだ。もちろん若い彼らの苦労がよくわかる。だから総務課の彼は徴収済み受信料の項目を消し、様々な出費に書き換える作業で呟くのだ。キーを押す。かたん。

「さらば愛しき受信料……」
スポンサーサイト
このページのトップに戻る
 コメント
このページのトップに戻る
 コメントの投稿
管理人のみ黙読
このページのトップに戻る

推薦リンク(新窓)文芸Webサーチ真・ショートショートコンテスト超短編小説会駄文同盟.com

Powered By FC2ブログ. Copyright (C)オリジナルのベルやかた ~Original Novel Mansion~ All Rights Reserved.

FC2Ad

  管理ページ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。